冠動脈バイパス術:カテーテル治療で困難な複雑病変にはバイパス手術

1.冠動脈バイパス術とは

虚血性心疾患により冠動脈が詰まったり狭くなったりして、心臓に十分な血液が行き届かなくなった場合に心臓への血液量を増やすために行う手術です。心臓の筋肉への血液量が増えると、心臓のポンプ機能が改善して胸痛などの症状がなくなり、将来の心筋梗塞や心不全などを起こす危険が軽減されます。
狭くなった部分を広げるカテーテル治療と異なり、狭くなった部分の先に新たな血管(グラフト)をつなぐことで血流を増やすため、カテーテル治療よりも再発が少ないのが特徴です。とくに内胸動脈を用いたバイパス手術は再発の可能性が極めて低く、どのようなカテーテル治療にも勝ります(後述)。狭窄箇所が多い場合や心臓のポンプ機能が低下している場合、糖尿病がある場合などは、カテーテル治療よりもバイパス手術が優れています。当院では、循環器内科医と心臓血管外科医が常に話し合って、それぞれの患者さんにベストな治療法を選択しています。


冠動脈バイパス術:カテーテル治療で困難な複雑病変にはバイパス手術

2.手術のアプローチについて

通常は胸の中央を縦に切って心臓にアプローチします(図1:胸骨正中切開)が、骨を切らずに左胸の小さな創で行う方法もあります(図2:MICSアプローチ)。MICS(ミックス)アプローチは、つなぐ血管の本数が少ない場合、大動脈などに動脈硬化が少ない場合に適応となることがあります。

3.冠動脈バイパス手術の方法について

心臓表面の冠動脈に新たな血管を針と糸でつないできます。つなぐ冠動脈の径は1.5~2.0mmほどです。バイパスでつなぐ新たな血管(グラフト)は、自分の体の中にある血管を使用します。もっともすぐれているグラフトは内胸動脈(胸の内側を左右1本ずつ走行しています)であり、動脈硬化を起こしにくい体の中の動脈でも特殊な血管です。他の血管やどのステント(カテーテル治療で使用する金属の筒)と比べても、もっとも長持ちするグラフトであり、当院ではすべての単独バイパス手術で内胸動脈を使用(ほとんどは左右両方とも使用)しています。その他には腕の動脈(橈骨動脈)、胃の動脈(右胃大網動脈)、脚の静脈(大伏在静脈)などを使用します。脚の静脈は内視鏡を使って小さな創で採取します。
バイパス手術には3つの方法があります。
(ア) 人工心肺を使用しない方法(オフポンプ手術)
(イ) 人工心肺を使用して、心臓を動かしたまま行う方法
(ウ) 人工心肺を使用して、心臓を止めて行う方法
*人工心肺とは、心臓と肺の代わりに血液に酸素を与えて全身に送るポンプ装置です。オフポンプバイパス手術は、人工心肺に関連する合併症リスクがなく、身体への負担が小さい方法です。しかし、血管をつなぐ際に心臓をひっくり返すため、心臓の機能が落ちていると手術中に血圧低下や心停止を起こすこともあります。オフポンプバイパス手術では外科医の技術も重要ですが、心臓をひっくり返したときに血圧を管理する麻酔医の技術が極めて重要です。当院では経験豊富な心臓麻酔医が麻酔を担当しています。
当院ではオフポンプ手術を第一選択にしています。ただし、安全かつ確実に血管をつなぐために、心臓機能が非常に悪い場合や手術中に血圧が保てない場合は、人工心肺を使用しています。オフポンプ手術が常に良いという宣伝もありますが、欠点のない治療法はありません。我々は、それぞれの病状に応じ、各手術法の利点・欠点を考慮したうえで選択していきます。

4. 術後の流れ

手術終了後は集中治療室に入ります。大きな問題がなければ、手術翌日に病棟へ戻りリハビリを開始します。術前の状態や術後経過によって異なりますが、順調に行けば手術から約1週間で退院となります。
(文責:平岩伸彦、田端実)

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