僧帽弁閉鎖不全症(MR)へのカテーテル治療
僧帽弁閉鎖不全症(MR)へのカテーテル治療



マイトラクリップによる経皮的僧帽弁接合不全修復術
マイトラクリップは、逆流を起こしている僧帽弁の前尖と後尖を挟み込むことで逆流を減少させる新しい治療機器です。その名のとおりクリップのような形をしており、脚の付け根の血管からカテーテルを使って心臓まで運びます。いままで手術が困難であった患者さんにも、身体への負担が少ないクリップ治療で治療が可能になりました。
東京ベイMR治療の強み
- 心エコーの診断力:熟練したエコー医師と技師が確実な診断を行います。治療適応の判断や弁の形態を把握するのに欠かせない経食道心エコーや運動負荷心エコーの件数は国内トップクラスです。
- MICSによる僧帽弁形成術:4K内視鏡を用いて数センチの切開で複雑な病変に対する僧帽弁形成術を多数行っています。東京ベイにはこの手術を学びに国内外から多くの医師が訪れます。
- 心エコー、手術、カテーテルの3拍子が揃ったチームによるクリップ術:カテーテル治療であるクリップ術にカテーテル技術が必要なのはもちろんですが、高度な心エコー技術や手術で得られた知識が非常に重要なのです。
心エコー、僧帽弁手術、カテーテルそれぞれのエキスパートを有し、すべてのMR治療オプションを提供できるハートチームだからこそ、患者さん一人一人に最適かつ高品質な治療をお届けすることができます。バランスの取れたハートチームだからこそ、本来は弁形成術をすべき器質性(一次性)MR患者さんがクリップ術で不完全な治療を受けたり、逆に手術リスクが高い患者さんが無理に開胸手術を受けたりするということが避けられるのです。
僧帽弁閉鎖不全症(MR)とは?
僧帽弁 は、4つに分かれる心臓の部屋の中でポンプの中心的役割をする左心室と、その前室にあたる左心房の間に位置します。心臓が拡張し始めると僧帽弁は大きく開いて血液を左心房から左心室に送り込みます。次に心臓が収縮して血液を全身に送る際には、僧帽弁はピタッと閉じて左心房への血液の逆流を防ぎます。このように僧帽弁は心臓の効率的な働きにおいて大切な役割をしております。僧帽弁閉鎖不全症(Mitral Regurgitation: MR)とは、僧帽弁の逆流防止弁の機能がうまく働かず左心房への血液の逆流が起きている状態です。
原因としては、主に以下の2つがあります:
(1)器質性(一次性)MR
僧帽弁そのものに不具合が生じて起きる逆流を器質性(または一次性)MRといいます。たとえば僧帽弁と左心室を結ぶひも状の「腱索」が切れたり、伸びたりすることで、僧帽弁の合わさりが悪くなり(接合不全)、血液が左心房へ逆流している状態です。
(2)機能性(二次性)MR
僧帽弁そのものに不具合はなく、左心室や左心房の不具合で起きる逆流を機能性(または二次性)MRといいます。たとえば、心筋梗塞や心筋症、僧帽弁以外の弁膜症などにより左心室の動きが悪くなる、左心室が大きくなる結果、僧帽弁の合わさりが悪くなり(接合不全)、血液が左心房へ逆流する状態です。心房細動という不整脈で左心房が大きくなることで逆流が生じることもあります。
MRの症状と検査
主な症状:息切れ 動悸 めまい 疲れやすい せき 足のむくみ
検査:MRの有無や重症度は心臓超音波検査で手軽に調べることができます。
経胸壁心エコー図検査
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左前胸部に検査用のジェルを塗り、体表面から心臓の大きさ、動き、MRを含めた弁膜症の有無などを調べます。専門の技師が検査を行い、専門医により判読・評価が行われます。 |
経食道心エコー図検査
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横を向いた状態で、胃カメラのように直径1cm程度の超音波プローベを食道まで進め、心臓を体内から観察する検査です。体表面からの心エコー検査に比べ、より鮮明に心臓の弁や逆流の観察が可能です。中等度以上のMRがある場合、特にマイトラクリップで治療可能か判定するには、この検査による精密検査が必須です。 |
負荷心エコー図検査
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MRの重症度、症状との関連性などを判定するために、歩行や足漕ぎなどの運動負荷検査の前後に体表面からの心エコー図検査を行うことがあります。 |
MRの治療方法
治療方法:経過観察または内服療法
経過観察または内服療法 | |
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重症度 | 軽度〜重度MR |
治療内容 | 内服薬により心臓の負担を下げ、症状の改善を目指します。 |
メリット | 心不全などない状態でしたら入院せずに外来での治療が可能です。心筋症が原因の場合は、内服治療だけで良くなることもあります。 |
デメリット | とくに器質性(一次性)MRの場合は根本的な治療ではありません。高度逆流では病気は徐々に悪化する可能性があります。 |
治療方法:外科的手術(僧帽弁形成術、僧帽弁置換術)

外科的手術 (僧帽弁形成術、僧帽弁置換術) | |
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重症度 | 重度MR |
治療内容 | 全身麻酔下で開胸をして、逆流を起こしている僧帽弁を修復、または人工弁に置き換えることで、逆流を直します。内視鏡を用いて数センチの切開で行う方法(内視鏡下MICS)もあります。 |
メリット | MRの原因となっている弁や腱索を直接修復するので、特に器質性(一次性)MRにおいては非常に優れた治療になります。骨を切らないMICS法であれば術後4,5日での退院が可能です。 |
デメリット | 人工心肺という器械を用いて心臓の動きを止めて行う手術であるため、手術リスクの高い患者さんには体への負担が大きくなります。機能性(二次性)MRに対しての手術の効果は、器質性(一次性)MRほどではないと考えられてます。 |
治療方法:カテーテル手術(経皮的僧帽弁クリップ術)

カテーテル手術 (経皮的僧帽弁クリップ術) | |
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重症度 | 重度MR |
治療内容 | 足の血管よりカテーテルを挿入し、接合の悪い僧帽弁をクリップでつまむことにより逆流を減らします。治療は全身麻酔で行います。 |
メリット | 手術リスクの高い患者さんでも、最小限の体への負担で逆流を減らすことができます。また、機能性(二次性)MRでも一定の効果があります。 |
デメリット | 僧帽弁自体を直すわけではないので、根本からの治療ではありません。手術に比べて逆流が多少残ることが多く、また新しい治療のため長期的な成績はまだわかっていません。僧帽弁の形態や逆流のメカニズムによっては、クリップによる治療が困難なことがあります。 |
どの治療が一番良いのかは、患者さんそれぞれの病状によりますが、わかりやすくまとめると以下のようになります。
軽度~重度MR、症状がない場合:経過観察・薬物療法
重度MR、症状のある場合:
器質性(一次性)MR⇒体に負担が少なく逆流をしっかり治すMICS弁形成術をまず検討。手術リスクが高い(75歳以上、心機能の低下、既に開胸手術を受けたことがある、胸部に放射線照射の既往がある、肝硬変などの肝臓病、肺気腫などの呼吸器疾患の合併、など)場合はクリップ手術が検討されます。
機能性(二次性)MR⇒多くの患者さんにおいて手術リスクが高いことがあり、経食道心エコー図検査の結果をもとに、クリップ術をはじめとした最適な治療を検討します。
クリップ治療までの流れ



医師紹介
渡辺 弘之
ハートセンター長
心エコー図検査、心血管イメージング担当
弁膜症外来を担当しております。患者さんとの対話を大切に心の通じる診療を目指しています。特に心エコー図検査を通じてひとりひとりの患者さんに最適な弁膜症治療を患者さんの目線で考えさせていただきます。
伊藤 丈二
心臓血管外科部長
マイトラクリップ術施行医
内視鏡下MICSを含めて外科的な僧帽弁形成術、僧帽弁置換術、クリップ術を行っています。ひとりひとりの患者さんに偏りのない最適な治療を提供させて頂きます。
Q&A
①受診には紹介状は必要ですか?
紹介状の有無にかかわらず診察いたします。かかりつけのお医者さんから、紹介状を頂くのは、これまでの病状や経過を知るのに大変役立ちますので、紹介状を書いてもらえるようならばお勧め致します。ただ紹介状が無くても、受診や検査を行うことはできます。また、外来の待ち時間を減らすために電話予約をお勧めしています。
②開胸手術でなく、クリップ手術での治療を希望しいているのですが、要望通りになりますか?
基本的には患者さんご自身のお体ですので、治療法に関しては患者さんのご意向は尊重しております。ただ、間違いなくMICS手術(傷の小さな外科手術)の方が良い選択といえる病状、僧帽弁や逆流の形態がクリップ術に不適、現在の日本の保険適用がない症例、ではMICS治療や薬物療法をお勧めしその理由もしっかりと専門医よりご説明させて頂きます。科学的なエビデンス、経験、そして患者さんのご希望、などの観点から最良のバランスを取って治療方法を決めることが大切と考えております。
③僧帽弁クリップ手術にはどのような合併症がありますか
穿刺部合併症
カテーテルを入れた足の付け根の部分が血腫で膨らんでしまったり、皮下出血のあざがしばらく残ったりすることがあります。
心タンポナーデ・血胸
カテーテルを挿入する際に心臓を損傷することで生じる合併症です。心臓の周りに血液が溜まり、血圧低下など重篤な状態につながることがあり、心臓の周りにたまった血液を緊急で抜くなどの処置が必要です。
血栓塞栓症、脳梗塞
カテーテルやクリップを体内に入れた際に血栓が形成、または気泡が生じ、それらが脳の血管に詰まってしまう(塞栓)合併症です。
クリップの脱落・塞栓
僧帽弁を掴んだクリップが外れてしまい、血管や他の臓器につまってしまう合併症です。
心房中隔欠損症
マイトラクリップ留置では右心房から心房中隔をカテーテルで広げながら左心房に進めますが、留置後も小さな穴が心房中隔に残ります。この穴を通じ血液が左心房から右心房に流れ込むことがあっても問題ないことが殆どですが、稀に呼吸が苦しくなったり、心臓に負担をかけたりする場合があり、その際は穴を塞ぐためのカテーテル治療が必要になることがあります。
僧帽弁狭窄症
クリップにより弁尖(前尖、後尖)同士をつまむ治療ですので、逆に弁が開きにくくなり、僧帽弁狭窄症が生じることがあります。術中に経食道心エコー図で観察し、逆流の減少と狭窄の程度のバランスを取りながら治療を進めます。
これら合併症は、ハートチームによる慎重な治療により頻度は抑えられ、また適切な対応により大事には至らないことが殆どです。マイトラクリップによる治療が検討された際は、これら考え得る合併症に関しても丁寧にご説明させて頂きます
お問合せ
東京ベイ・浦安市川医療センター
ハートセンター担当
047-351-3101(代表)
Eメールでのご相談も受け付けております。
tbmc.hc01@gmail.com