こんにちは、私たちは東京ベイ・浦安市川医療センター 外科チームです。
大学病院やセンター病院のような専門性の高い病院とは異なり、地域で発生する様々な外科的疾患に対応するよう日々つとめています。
今回では、その中でも比較的手術数が多いヘルニアについてのお話です。
ソケイヘルニアとは?
股の両脇(ここをソケイ部といいます)はもともと筋肉の壁が薄い部分なので、ここがさらに薄くなってお腹の内臓部分が出っ張った状態をいいます。
昔の言葉でいえば「脱腸」で、どちらかというと男性の方がなりやすいです。
お腹に力を入れたりすると膨らんだときに疑います。
出っ張った部分は押したり、横になって寝たりすればもどるのが特徴です。
加齢とともに筋肉が弱くなってなるパターンが多いですが、もとも子供のころからあったソケイヘルニアがなにかのきっかけで目立ちやすくなって気づくことも多いです。
小児のヘルニアは、筋肉が弱くなってできたわけではなく、生まれつきソケイ部に”でっぱり”の袋がある場合で、100人中数人はあるポピュラーな疾患です。
残念ながら放っておいて治ることはなく、多くの場合は年齢を経るごとにより目立つようになってきます。
ソケイヘルニアは手術しないといけないのか?
ヘルニアにはときどき”嵌頓(カントン)”といって、脱腸した内臓がヘルニアの袋に嵌まり込んで戻らなくなってしまうことがあります。
こうなると痛くてどうしようもなくなるので、ほどんどの場合は当センターのような救急病院に受診することになり、なんとかもどればいいですが、もどらなければ緊急手術となります。
実際当センターでも年に何件かそのような手術を行っています。
かつては、「放っておいたら”カントン”するかもしれないから手術した方がいい!」ということで、ソケイヘルニアがある人を見つけたら、みなさんに手術をお薦めしていました。
ところが、2006年にJAMAという米国の有名な医学雑誌に、ソケイヘルニアについて調べた論文が発表されて、その内容によると、手術しないで本当にカントンするかどうかを確かめたところ、カントンなど緊急手術となるのは1年間で全体の0.2%しかいなかったことがわかりました。
そういう訳で、今はヘルニアがあるだけで「カントンするから手術しなくてはいかん!」と言ってしまっては、ちょっと現状とはかけはなれた脅しになってしまうことになります。
もちろん、ソケイヘルニアがあることが気になってしょうがない人は手術した方がいいですが、あまり気にならないし、できれば手術したくないという人は、何もせず様子を見ることも判断として間違ってないです。
どんな人が手術した方がいいの?
ソケイヘルニアの症状も人によって様々で、日常生活の妨げとなるくらい症状のある人から、出っ張っていることを除けばほとんど何も感じない人までいます。
お腹に強い力が加わったときに出っ張りやすいので、こういったタイミングで痛みや不快感を感じる場合には、手術をした方がよいです。
そういったタイミングとは無関係にソケイ部に痛みを感じるという場合には、痛みの原因はヘルニアではないかもしれないので手術を受ける場合には注意が必要です。
ときにソケイヘルニアは傷の痛みが長いあいだつづくことがあるので、痛みの原因を見極めてからでないと、痛みを増やしてしまうことになりかねません。
また、ヘルニアはお腹に力が加わりやすい原因があるままだと治りも悪く、せっかく手術してもまた出っ張ってしまう(再発)ことがあるので、ヘルニアになった原因が残ったままでないかも注意する必要があります。
こうした原因のうちもっとも多いのは喫煙で、長期喫煙者の多くは程度の差はあれ、慢性気道炎症があり、咳や痰が多いと、これを出すためにお腹に力が加わることになります。
ヘルニアの手術を受けようという場合には禁煙が必要です。
他には、前立腺肥大(排尿の際お腹に力が入る)や進行大腸癌(排便でいきむ)などを契機として、ヘルニアが悪くなることがあるので、このような場合にはヘルニアより先に原因の治療を行う必要があります。
腹腔鏡下ソケイヘルニア修復術とは?
ここ数年「腹腔鏡」というと全国を騒がせた医療事故があったせいか、敬遠される方もいらっしゃいますが、ヘルニアの手術の場合には腹腔鏡手術はすでに世界的にポピュラーとなっており、成績(再発する頻度)も危険性も従来法と差はありません。
こういってしまうと、じゃあ従来法(ソケイ部の筋肉を切開して行う方法)でいいんじゃないか?と言われればその通りなのですが、腹腔鏡手術には腹腔鏡手術なりのメリットもあります。
一番は”痛み”に関してです。
何十年も前に行っていたヘルニアの手術は、出っ張りの穴である筋肉を強引に寄せて縫い合わせていました。
この方法では痛みは強く、再発も多かったので、今から20年くらい前には筋肉を寄せて縫うのではなく、穴にメッシュ状のシートを敷いて周囲を縫って固定する方法が主流となってきました。
こうすることによって痛みはだいぶ軽減されましたが、穴を塞ぐまでのその上の筋肉は切らざるを得ないので、痛みなしとはなかなかいかず、ときに前記のような長期間つづく痛みもあります。
こうした痛みについてのデメリットを解消したのが腹腔鏡手術で、この方法ではお腹の内側からシートをあてるので、そもそもソケイ部の筋肉は全く切りません。
お臍と左右のお腹に小さな穴を開けるだけなので、傷の痛みがだいぶ軽減するほか、従来方でときどき生じていた長期間つづく痛みというのも発生しません(その部位を切らないので)。
治す、という目的に対しては腹腔鏡でも従来法でも同じですが、なるべく痛くなく・なるべく早く日常生活に復帰したいという場合には腹腔鏡を選択するのも1つです。
ただし、どちらの方法で行っても手術数週間は激しいスポーツや重労働を控えるようおすすめしています。
以上、今回はソケイヘルニアについてのお話でした。
当科では、2012年から腹腔鏡下ヘルニア修復術を積極的におこなってきており、手術手技や成績も安定しています。
お困りの際はぜひ当科にご相談ください。