胃癌検診(ABC検診)で要精査と言われたら〜ピロリ陽性だと胃カメラしなくちゃダメですか?〜

胃癌検診(ABC検診)で要精査と言われたら〜ピロリ陽性だと胃カメラしなくちゃダメですか?〜

みなさま、こんにちは、東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科 高崎 哲郎です。2018年最初の東京ベイ総合内科Web通信は、胃癌検診についてです。実は、2018年4月から浦安市での胃カメラを使った対策型検診が始まります。ご存知でしたでしょうか?今回は、胃癌検診とピロリ菌などについての情報を皆さんにお届けします。今や、「2〜4人に1人が癌で亡くなっている」って聞いたことはありませんか。胃癌は、日本人の癌の死亡数の中でも、「第3位」を占めることが知られています。

ちなみに大腸癌は癌の死亡数の中で「第2位」です。大腸癌の予防も重要です!!詳しくは、https://tokyobay-mc.jp/general_medicine_blog/web07_04/をご参照下さい。なので、胃癌を効果的に予防することができれば、それは医学的にも医療経済学的にも非常に大きなメリットがあるといえます。

 死亡数罹患数
1位
2位大腸大腸
3位
4位膵臓乳房
5位肝臓前立腺

http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
2015年がん死亡者、2013年がん罹患数(推定)より作成

・ピロリ菌がいると胃癌になるの?〜私の年代では、どのくらいの割合でピロリ菌がいるの?〜

ピロリ菌は、幼少時に気がつかない間に感染することが多く、胃の粘膜に感染して、胃炎を引き起こします。症状がないことが多いので、検査をしないとわかりません。正常な胃粘膜はピンク色で、ひだに覆われています。しかし、ピロリ菌による胃炎が続くと、ひだがなくなり、血管が透けて見えるほど粘膜も薄くなります。このような状態になることを萎縮といいます。胃の表面の粘膜はピロリ菌感染が長期に渡るにともなって、正常胃粘膜→萎縮性胃炎→腸上皮化生→胃癌発症という時間経過をたどると考えられています。日本においては、ピロリ菌現感染者は未感染者と比べた時、胃癌のリスクが15倍以上になるといわれており、日本人の胃癌の原因のほとんどがピロリ菌感染によるものとされています。

1950年代以前に生まれた方は、45%程度の感染率です。若い年代になるにつれて感染率は低下しています。

・ABC検診って何ですか?〜私の健診の結果が、A判定!、B判定!、C判定!、D判定!だったんですけど〜

ABC検診とは、胃癌になるリスクを血液検査により分類する検診の方法です。血液検査では、血液中の抗ピロリ抗体とペプシノゲンの2つを測定します。それぞれ、ピロリ菌の感染と胃粘膜の萎縮をみています。

・抗ピロリ抗体とは
ピロリ菌感染により胃粘膜の免疫反応が引き起こされることによって産生される物質で、間接的にピロリ菌の感染の有無を診断することができます。しかし、ピロリ菌感染した後でも、抗ピロリ抗体検査が陽性とならない場合があります。これが、D判定の方になります。理由は、ピロリ菌感染による胃粘膜へのダメージが蓄積されて、粘膜の荒廃が進行すると、今度は逆にピロリ菌の住める場所がなくなり、結果として抗体検査が陰性となってしまうのです。

・ペプシノゲン検査
胃液に含まれる消化酵素から胃粘膜の状態を推定する検査です。胃液中のペプシノゲンⅠ(PGⅠ)、ペプシノゲンⅡ(PGⅡ)とよばれる消化酵素は一部が血液中で測定できるため、まずはそれらを測定します。PGⅠ、PGⅡ、PGⅠ/Ⅱ比を組み合わせることで、胃粘膜萎縮の程度を評価するのがPG法です。胃粘膜の萎縮がある程度進むとPG法陽性となります。注意したいのは、ピロリ菌除菌後、解熱鎮痛薬などの一部の薬剤内服中、腎臓機能の低下、胃の手術後などの人ではPG値が変動してしまうため、評価が困難となってしまうことです。ABC検診の結果は抗ピロリ抗体とPG法の結果をもとにA~Dの4群に分類され、A群からD群に進行するほど胃癌発症リスクは高いといわれています。

抗ピロリ抗体検査
陰性(−)陽性(+)
PG検査陰性(−)AB
陽性(+)DC

A判定:ピロリ菌感染がない健康な胃の状態
B〜D群:内視鏡検査で精密検査と治療を行うことが推奨されています。
D判定:胃粘膜の萎縮が高度に進行すると、ピロリ抗体が陰性となることがあります。内視鏡検査等で萎縮性胃炎がある場合は、別の方法(尿素呼気試験など)を追加で行います。

・人間ドック・市の検診などいろいろあるけど、違いは何ですか?〜胃バリウム検査とどう違うの?〜

癌検診と呼ばれるものには、標的とする癌の死亡率を下げることを目的として、公共政策として行う対策型癌検診と、個人のレベルで判断する人間ドック型の任意型癌検診とがあります。前述のABC検診は任意型検診に該当します。近年、ガイドラインと呼ばれる、胃癌検診における診療指針の改訂が行われました。

2014年版の新ガイドラインにより、新しく内視鏡検査が対策型検診に加わりました。以前のガイドラインでは、胃癌検診として死亡率減少効果を認められていたのは胃X線検査(胃バリウム検査)のみでしたが、胃内視鏡検査による死亡率減少効果を示す複数の研究が発表されたことにより、胃内視鏡検査も対策型検診に加えられることになりました。

・胃バリウム検査の問題点
胃バリウムは、バリウムを飲むだけですので、内視鏡と比べて負担は少なく、かつ短時間で検査が終わります。また胃バリウム検査も、胃癌検診として死亡率減少効果を認められているので、非常に有用な検査です。ただし、合併症として便秘、誤嚥、腸閉塞、消化管穿孔、腹膜炎などの報告があります。

また、早期胃癌を胃X線検査で発見するには難しい場合も多く、実際に直接観察する胃カメラの方が適しています。今後は内視鏡検査による胃癌検診が主流になっていくと考えられています。

・胃カメラを受ける必要があるの?
〜ピロリ菌除菌だけで良いじゃないですか?〜

ABC検診では、胃癌リスクを評価することはできても、実際の胃癌を含めた病気の有無を確認することはできません。また、ピロリ菌の除菌を実施するときは内視鏡によって、胃炎など指定された疾患の診断が必要となります。ABC検診と内視鏡検査はセットであると考えていただくとよいでしょう。

なお、日本消化器病学会によると、他のクリニックや病院で実施した内視鏡検査によって胃炎と判明した場合でも、実施日時が判明し、ピロリ菌感染の確認検査が内視鏡検査の後6ヶ月以内であれば、除菌を実施する医療機関での内視鏡再検査は不要であるとされています。

・ピロリ菌感染があると言われたのですが・・・
〜除菌って必要なのですか?! 注意する点はありますか?〜

ピロリ菌に感染していることがわかったとき、胃癌の発生予防効果を期待して除菌をすることが強く推奨されています。それ以外にも、除菌治療は胃潰瘍・十二指腸潰瘍などに対しても予防や再発を防ぐ効果があります。標準的な治療は、PPIと呼ばれる胃酸分泌を抑制する薬と、2種類の抗菌薬を1日2回、合計7日間内服する方法が一般的です。ただし、除菌期間中に喫煙や飲酒をすることにより、除菌成功率が低下したり、一部の薬剤では、副作用は起こりやすくなるため、少なくとも期間中は禁煙禁酒をお願いしています。その他の除菌治療の注意点として、薬剤を内服することによって、副作用が生じる可能性があります。多い症状としては約10~15%に下痢が生じるとされています。そのほか、口内炎や皮疹、肝機能障害などが挙げられます。

当センターでは、除菌治療薬と同時に、除菌成功率の向上と下痢の副作用の軽減を期待して整腸剤を同時に処方しています。また、除菌に使用する薬剤と一部の薬剤の間には相互作用といって、組み合わせにより身体に影響が生じることがあるため、普段内服している薬剤を医師にお伝えいただく必要があります。

・ピロリ菌の除菌の薬を飲めば、もう大丈夫ですよね?〜除菌が成功したのか確認する必要なんてあるのですか?〜

実は、ピロリ菌の薬を飲んでも除菌成功率は、1次除菌の場合は90%程度なのです。つまり、ピロリ菌の治療薬を飲んでも100%成功するわけではないのです。ですので、除菌判定を行う必要があります。1次除菌に失敗したら、2次除菌という、別の種類の薬剤による除菌治療があります。ただし、保険適用があるのは2次除菌までです。1次除菌と2次除菌に失敗してしまうと、患者さんの希望により3次除菌を実施することになります。3次除菌は保険適用外の治療なので費用負担が増加します。

・ピロリ菌を除菌したら、胃癌は心配ないですよね?〜除菌した後は、胃カメラは必要なのですか?〜

ピロリ菌を除菌したら、胃癌発症のリスクは低下しますがゼロにはなりません。また、除菌した後も胃癌の発症頻度は、ピロリ菌に感染したことがない人と比較して高いことが知られています。したがって、ピロリ菌除菌後の人で、症状がないとしても、定期的な胃カメラが必要とされています。では、どのくらいの頻度で胃カメラをする必要があるのでしょうか?実は、まだ明確な答えはありません。2年に1回だと、既に進行癌の状態になっている患者さんに出会うことがあります。ですので、ピロリ菌に感染した患者さんの場合は、年に1回の胃カメラを勧めています。

・除菌判定の方法〜まさか、また胃カメラじゃないですよね?〜

ピロリ菌の除菌の治療を行った後は、実際に除菌できているか確認するための除菌判定を行います。除菌判定は、内服治療後、1ヶ月以上して検査を実施します。当センターの外来では、患者さんの身体的負担が少なく、簡便で、検査の信頼性が高いとされる尿素呼気試験(UBT)によって、除菌判定を行っています。胃カメラではなく、バックの中に息を吐くだけの簡単な検査です。

除菌の薬を1週間飲んだ後、1ヶ月以上あけてから、呼気試験を行います。

・ピロリ菌は、また感染することがあるのですか?

日本において、除菌後のピロリ菌再感染の可能性は非常に低く、1%未満といわれています。現在ピロリ菌の主な感染時期は乳幼児期で、感染経路は家族内感染であるとされています。早期にピロリ菌除菌を実施することは次世代への対策としても非常に重要であるといえます。

文責:高崎 哲郎

参考文献
2016年改訂版 H.pylori感染の診断と治療のガイドライン, 編集 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会, 先端医学社
有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン 2014年度版, 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター

◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科

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