インフルエンザワクチンって毎年受けなきゃいけないんですか?本当に効果ありますか?

インフルエンザワクチンって毎年受けなきゃいけないんですか?本当に効果ありますか?

みなさま、毎年インフルエンザワクチンは受けていらっしゃいますか?
インフルエンザワクチンは、年齢やこれまで病気の有無にかかわらず、できる限り多くの方に接種して頂きたい予防接種の一つです。
今回、東京ベイの総合内科で感染症を得意とする堀内が、インフルエンザワクチンに関するよくある疑問に答えていきます。

Q1. インフルエンザワクチンはどういう人が受けるべきですか?

生後6ヶ月以上のすべての人に勧めます。
これは米国疾病予防管理センター (CDC) の推奨に従っています(1)。
我が国においても、1) 65歳以上の高齢者、2) 60から64歳で心臓、腎臓、呼吸器の機能に障害がある人や、ヒト免疫不全ウイルス (HIV) による免疫機能障害がある人は予防接種法に基づいて定期接種の対象となっています(2)。
また、妊娠全期間の妊婦も接種可能と産婦人科学会が明記しています(3)。
小児については任意接種ですが、特に4歳までの小児には強く推奨されています(1)。

Q2. インフルエンザワクチンは効果がありますか?

あります。
しかし、効果という意味に注意が必要です。
インフルエンザワクチン接種は発症の100%の予防を約束するものではなく、インフルエンザの重症化や肺炎などの合併症、死亡率を低下させることが大きな効果です。
特に、Q1に上げたような元々の病気がある方や、高齢者、妊婦、施設居住者であればより重要です。
インフルエンザによって入院し、その結果として体の動きや認知機能が弱ってしまう高齢者は多々いらっしゃいます。

また、そうでない若年で健康な方でも、周囲の方にインフルエンザを感染させにくくするという効果があります。
インフルエンザに限らず、ワクチンには自分だけではなく、周りにいる体の弱い方を守るという社会・経済的な意味があります(4)。
手洗いやうがい、咳エチケットといった対策に加えて、若い方もぜひワクチン接種をお願いします。

逆に、最近雑貨として発売されている空間除菌グッズは科学的な根拠に乏しく、消費者庁からも公式に警告的な措置命令が出されています(5)。

ここからインフルエンザワクチンについて検証された研究について記載します。
18歳から64歳の成人で、インフルエンザワクチンの効果を検証した研究では、ワクチン投与で59%[95%CI 57-61]インフルエンザの発症を41%減少させました(6)。


Osterholm MT, et al. Lancet Infect Dis. 2012 Sep:12(9):655.より筆者作成。
ワクチン未接種者の発症率を100%とした場合、発症率の相対リスク減少は59%[95%CI 57-61]となり、ワクチン接種者の発症率は41%まで減少。

ワクチン効果(efficacy) を検証する目的で、下記の条件を満たした8つの無作為化比較試験を集積したメタアナリシス。
P:18-64歳の成人を対象
I:介入群 インフルエンザワクチン
C:コントロール群 プラセボ
O:検査で確かめられたインフルエンザ

65歳以上の自宅居住の高齢者を対象にしたコホート研究では、肺炎やインフルエンザによる入院率を27% [95%CI 0.68-0.77] 減らし、死亡率を48%[95%CI 0.50-0.55]下げました(7)。
また施設居住の高齢者を対象としたコホート研究では、呼吸器疾患の発症を33%予防できました(8)。

高齢者にインフルエンザワクチンを投与すると、心疾患による入院を19%、脳卒中による入院を16-23%減らすことという研究があります(9)。

以上のことから、アメリカ心臓協会およびアメリカ循環器学会(AHA/ACC) では、冠動脈疾患やその他の動脈硬化性疾患の患者に対してインフルエンザワクチンを投与することを強く推奨しています(10)。

ちなみに、子供がインフルエンザワクチンを受けると、ワクチンを受けていない家族のインフルエンザ様疾患を減らします(11)。

また妊娠中にインフルエンザワクチンを接種すると、生まれた乳児のインフルエンザを50%下げることができます(12)。

Q3. どのタイミングで受けるべきですか? 毎年受けるべきですか?

インフルエンザの流行期が12月から3月であることから、厚生労働省は12月中旬までに受けるように推奨しています(2)。
また、ワクチンの効果は長くとも数ヶ月であり、流行するウイルス株も毎年異なることから、毎年受けるべきです(2)。
13歳未満の方は2回受けてください(2)。


東京都インフルエンザ情報第22号 2017年6月9日発行
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/assets/flu/2016/Vol19No22.pdf
東京都感染症情報センター
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/flu/flu/

Q4. どんな副作用が考えられますか?

1-2割の方で疼痛や腫脹、発赤が起こることがありますが、数日で改善します(2)。
だるさや発熱、寒気も5%から10%でありえますが、これでも自然に2、3日で治ります(2)。
最重症のアレルギー反応であるアナフィラキシーショックが稀にありえるため、接種後は30分ほど経過観察が必要です(2)。

ワクチン接種後にギランバレー症候群を発症した報告がありますが、ワクチンが関わっているかは明らかではありません(2)。
ワクチン接種後の疾患には、ワクチンに関わらずたまたま接種後に疾患を発症した方が含まれるからです(2)。
ワクチン接種後の死亡例についても同様の考慮が必要です。
インフルエンザワクチン接種後に亡くなった症例を検討した厚生労働省の報告で、いずれの場合もワクチンとの関連は明らかではなく、ほとんどの例が基礎疾患を持つ高齢者でした(2)。

ワクチンによって得られる利益が大きいことから、例外的な状況を除いて上記の副反応がワクチン接種を避ける理由にはならないと考えます。

Q5. 受けてはいけない人はいますか?

接種時に発熱もふくめた急性疾患にかかっていたり、これまでに同じワクチンやその成分でアフィラキシーショックを起こしたりした方は接種が適当ではありません(2)。
小児神経学会のガイドラインでは熱性けいれんを起こした小児が受けていけない予防接種はないとされ、けいれん後の予防接種を延期するにしても2から3ヶ月程度に留めることとされています(13)。
ギランバレー症候群を持つ方については主治医と慎重に相談の上で接種とされています(1)。

Q6. 卵アレルギーがある人は受けてもいいですか?

可能です。現在日本で使用されている不活性化インフルエンザワクチンは鶏卵を用いて製作されています(2)。
米国のガイドラインでは、息苦しさなど、蕁麻疹以外の症状を示す重度の卵アレルギーを持つ方についても、アナフィラキシーに対応できる医療関係者の監督下で接種は適切とされています(1)。
蕁麻疹程度の軽度の卵アレルギー症状のみある方であれば、通常の対応と同じになります(1)。
上述通り、インフルエンザワクチンによってアナフィラキシーショックを起こした方は接種不可です。

Q7. チメロサール含有のワクチンを受けても害はないでしょうか?

安全と考えます。
チメロサールは細菌増殖を防ぐ保存剤として用いられる水銀化合物です(1)。
現在用いられているインフルエンザワクチンにはチメロサール含有の製品があります。
自閉症を含んだ発達障害との関連が疑われたこともありますが、様々な研究ではっきりと否定されています(14)。
日本の産婦人科ガイドラインにおいても妊婦への投与を躊躇すべきでないとされています(3)。

Q8. インフルエンザワクチンでインフルエンザになりますか?

なりません。
日本で現在流通しているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンと言われる製剤で、合成の過程でウイルスが不活性化されているからです。

常に予防は治療より安く済みます。
インフルエンザも同様です。
インターネットには様々な健康や医療情報があり、その中には信頼できない情報源も多くあります。
信頼できる情報源となることを目指して本稿を作りました。
公的機関(go.jp)や大学(ac.jp)など信頼のできる情報源を探せるようになるのも大切と思います。
ワクチンについては、小児が対象ですが Know VPD! というサイトがありますので紹介いたします(http://www.know-vpd.jp)。

自分と周囲の身を守るためにワクチン接種をぜひお願いします。

(1) Grohskopf LA, et al. MMWR Recomm Rep 2016;65(5):p.26.
(2) 厚生労働省ホームページ. 「平成28年度インフルエンザQ&A」平成28年11月9日作成.
2018年8月1日参照. http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html
(3) 日本産科婦人科学会, 日本産婦人科医会. 「産婦人科診療ガイドライン-産科編2014」
http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2014.pdf
(4) Andre FE, et al. Bulletein of the World Health Organization. 2008 Feb;86(2);81-160.
(5)消費者庁. 「二酸化塩素を利用した空間除菌を標ぼうするグッズ販売業者17社に対する景品表 示法に基づく措置命令について」平成26年3月27日
http://www.caa.go.jp/representation/pdf/140327premiums_2.pdf
(6) Osterholm MT, et al. Lancet Infect Dis. 2012 Sep:12(9):655.
(7) Nichol KL, et al. N Engl J Med. 2007;357:1373-1381.
(8) Monto AS, et al. Am J Epidemiol. 2001 Jul 15;154(2):155-160.
(9) Nichol KL et al. N Eng J Med. 2003;348:1322-1332.
(10) Davis MM et al. J Am Coll Cardiol. 2006 Dec 19;48(12)2610.
(11) King JC et al. N Engl J Med. 2006;355:2523-2532.
(12) Madhi SA. N Engl J Med. 2014;371:918-931.
(13) 熱性けいれん診療ガイドライン策定委員会. 「熱性けいれん診療ガイドライン 2015」
日本小児神経学会.
(14) Price CS, et al. Pediatrics. 2010 Oct;126(4):656-64.

文責:総合内科 堀内 正夫

◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科

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