突然ですが、検診で受けたレントゲン異常があると言われたらどうしますか?
多くの人がピンとこないと思いますので、本日のお話でここをピンとくるようにします。
胸部レントゲンは、日本の制度では40歳以上の方は毎年撮影するよう勧められています。
検診には公費で全員に行う対策型検診と、任意、自費で行う任意型検診(代表的なものは人間ドックです)がありますが、胸部レントゲンは前者の対象になっています。
胸部レントゲン検診の主目的は、肺癌を発見することです。
肺癌は、全ての癌による死亡の中で、男性の一位、女性の二位を占めています。
もう少し詳しく見てみましょう
1. 肺癌はどんな人がなりやすいのか
肺癌は、50歳以降の男性に起こりやすい病気です。
男女比は約2.5:1とされています。
喫煙をしている人は、していない人に比べ約4倍肺癌にかかりやすくなると言われていて、若くから、たくさん喫煙されていればいるほどその危険は増すことになります。
自分で喫煙していなくても、煙を吸い込む受動喫煙も肺癌のリスクになります。
これを読んでハッとされたかたは是非禁煙してください。
現在喫煙されている方も、禁煙すればタバコを吸い続ける場合に比べてリスクが減ると言われています。
自分の意志でやめることも大切ですが、禁煙補助薬を用いればより禁煙できる可能性が高くなります。
当センターには禁煙外来もありますので、是非一度相談ください。
喫煙以外にも、慢性閉塞性肺疾患(いわゆるタバコ肺で肺気腫やCOPDとも呼ばれます)やアスベストなどへの職業暴露、大気汚染なども肺癌の危険因子と言われています。
2. 肺癌はどのような症状で見つかるのか
肺癌の多くは無症状です。
肺は痛みを感じない臓器なので、腫瘍ができても自覚症状を呈しにくいのです。
検診は無症状のうちに早期の病気を発見し、治療につなげることが大きな目的です。
胸部レントゲンで肺癌が見つかったとすれば、それは病気が見つかったという意味では不幸なことですが、もしレントゲンをうけていなければもっと進行した状態で見つかることになった、と考えることもできます。
腫瘍が進行すると気管支を刺激することで咳が出るようになったり、腫瘍からの出血が痰に混じることで血痰を生じるようになったり、あるいは消耗して体重が減ったりというような症状を呈します(全員が症状を呈するとは限りません)。
残念ながら症状が出てから発見される肺癌は進行していて、根治(病気を完全に治すこと) はできないことが多いです。
3. レントゲン異常を指摘された。次にどうすればいいの?
検診の胸部レントゲンで異常がみつかれば、医療機関受診を勧められます。
この場合は肺癌の専門である呼吸器科のある施設を受診するのがよいでしょう。
当センターは呼吸器内科、一般外科で肺癌の診療を行なっています。
胸部レントゲンの異常がすべて肺癌というわけではありません。
肺炎や昔の結核の痕などもレントゲンでは異常陰影として映ります。
胸部レントゲン異常で受診された場合、もう一度専門医がレントゲンを見直して(前回のレントゲンから時間が経っている場合は、もう一度撮って比較することもよくあります)、詳しく診察した上で次の精密検査の方針を立てます。
実際には、レントゲンで指摘された異常陰影をより詳しく調べるために胸部CTを撮像することが多いです。
CTでは立体の情報が得られることができ、レントゲンよりも多くのことがわかります。
4. 肺癌かも?精密検査は?
ここまでのステップで、専門医が肺癌の可能性ありと判断した場合、確定診断と病期診断にすすみます。
癌の確定診断には、生検といわれる手順が必要です。
生検とは、腫瘍の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べることを言います。
肺癌の場合、多くは気管支鏡とよばれる内視鏡を用いて腫瘍の一部を採取することになります。
生検の目的には、癌かどうかを確かめる、といった意味もありますが、癌のなかでもどのタイプなのか、遺伝子のタイプはどうなのか、など詳細な情報を得る意味もあります。
現在の癌治療は、癌のタイプや遺伝子のタイプによってかなり個別化されてきています。
生検と並行して、CTやMRIなどを使用して病期診断を行います。
癌が進行すると、周囲のリンパ節に転移し、さらに血液の流れに乗って離れた臓器に転移します。
癌が一部にとどまっている場合は手術で病巣を切除することで、完治の可能性がありますが、癌が遠くの臓器に転移してしまっている場合は、完治はできず、抗ガン剤などで進行を遅らせて少しでも長く生きることを目標とする治療を行います。
5. 癌にならないために、どのようなことに気をつければよいのか
タバコを吸わないこと。
また、偏らずにバランスのよい食事をとり、適度な運動を心がけましょう。
お酒についても、飲むなら適度な範囲で嗜みましょう。
世界保健機構(WHO)や国立がん研究センターから、このようながんになりにくい生活習慣を送ることが薦められています。
また、がん検診を定期的に受けることも大切です。
今回紹介した肺癌検診のほかに、胃カメラにや胃X線による胃癌検診、便潜血検査による大腸癌検診、女性であれば婦人科での子宮癌検診やマンモグラフィによる乳癌検診などがあり、癌による死亡を減少させることがこれまでの研究で証明されています。
いかがでしたか?
胸のレントゲンはとてもありふれた検査ですが、このようなことを意識して我々医療者は診療しています。
もしレントゲンで異常が見つかった場合は、呼吸器内科の外来に受診してください。
ベストな検査、治療を患者さんと一緒に考えていきますね。
文責:総合内科・呼吸器内科 江原 淳