「緩和ケア」と聞いて何を思い浮かべますか?〜決して特別なものではない緩和ケアを皆さまへ〜

みなさま、こんにちは。東京ベイ緩和ケアチームです。我々は、緩和ケア指導医を含む医師、看護師、薬剤師、リハビリスタッフ(理学療法士・作業療法士)、栄養士、ソーシャルワーカーからなるチームで、入院される患者さんにとって最適な緩和ケアが提供できるようサポートしています。

東京ベイでは、様々な背景のもとで、様々な疾患を抱えた患者さんが入院してこられます。患者さんの入院される理由の多くは急性期疾患で、その病気の治療をして状態がよくなれば、速やかに社会生活に復帰されるという方もたくさんいらっしゃいます。
その一方で、がんや認知症、心不全といった進行性の疾患を抱えた患者さんも多数いらっしゃいます。そういった患者さんの治療の目標は、病気そのものを治療すること(キュアcureとも呼ばれます)よりも、一定の支障を抱えても生活の質(QOL)を維持・向上させ、身体的のみならず精神的・社会的な意味も含めた健康を保つことを目指す「ケアcare」が重要となっています。厚生労働省も2015年には「保健医療2035提言書」を出し、その中で、「2035年までに必要な保健医療のパラダイムシフト」の一つに「キュア中心からケア中心へ」ということを掲げています。

1)緩和ケアとは

緩和ケアというと、皆さんどういったイメージをお持ちでしょうか。最近は少しずつこの言葉の理解も進んできていると思いますが、「もう助からないと宣告された人が受ける治療」「助かるための治療を受けない、何もしないのと一緒」「医者から匙を投げられて言い渡された治療」などと誤解されている方も、いらっしゃるかもしれません。
そもそも緩和ケアというのはなにかというと、2002年に世界保健機関(WHO)がこのように定義しています。

「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。」

日本緩和医療学会HPより

この定義は、20年近くたった今でも非常に意義深く、今でも活用できる定義だと考えています。個人的に特に重要だと感じるキーワードは、「生命を脅かす病」「患者とその家族」「QOLを向上させるアプローチ」です。
緩和ケアは「生命を脅かす病」すべてが対象になる、つまりがんだけでなく、進行性の疾患という意味では心不全や閉塞性肺疾患、高度認知症などといったあらゆる疾患が対象になるということです。そして、患者だけでなく「その家族(広く言えば関係者も)」も対象になっているのも重要です。さらには、緩和ケアの目的もQOLを向上させることと明確化されています。

治療の目的はQOLを向上させることであり、その目標達成のために最善のことをさせていただくのが緩和ケアとなります。そのため、緩和ケアは、苦痛をとるために薬を投与するだけではありません。時には「行っても方針変更の起こらないような採血検査やレントゲン検査を行わない」というのが緩和ケアであったり「点滴をしてもむくみがひどくなったり針を刺す痛みがあり、しかも点滴をしてもメリットが乏しいので行わない」というのが緩和ケアであったりします。苦痛をとるように「する」だけでなく、苦痛になるようなことを「しない」というのも非常に大事なことなのですが、「何もしない」と誤解されやすいのが、なかなか理解が得られにくい原因のように思います。

2)総合内科と緩和ケア

人口の高齢化が進むことで、入院される患者さんも高齢で多数の問題を抱えていらっしゃることが多くなります。患者さんの全体像を考えながら、臓器横断的に診療することが得意な病院総合医のニーズは、今後ますます増えてくるというのは5月の記事でも紹介させていただきました(「病院総合医への道〜研修病院選びや医師キャリア形成の新たな選択肢〜」)。総合内科医にとって、緩和ケアの知識と経験はなくてはならないものと言えますが、その理由としては以下のようなことが挙げられます。

  1. 高齢患者さんの抱えている問題すべてがキュア(治癒)できるものとは限らず、ケアが治療の中心となる病気もたくさんあります。ケアが中心となるということは、治療の目標はQOLの維持・向上にあるわけですが、それには緩和ケアの占める割合が増えてきます(WHOの定義の通りです)。
  2. 患者さんの多くがご高齢であり、必然的に臨死期に立ち会わせていただく機会も多くなります。臨死期においては、1のように治療の目標はケアとなることが多く、緩和ケアが非常に重要となります。

つまり、対象となる患者さんの高齢化という意味でも、その患者さんが抱える疾患の内容という意味においても総合内科医にとって緩和ケアは必要なのです。

3)誰が緩和ケアを行うか?

それでは、緩和ケアを行うのは医師だけでしょうか。もちろんそんなことはありません。医師は、入院されてくる患者さんの社会背景なども考慮の上で、治療を個別化し、その人の治療目標に沿った最善の医療を提供できるよう常に努力をしています。また、総合内科では倫理カンファレンスによって、知識と実践を積んでいます(「倫理カンファレンス〜患者さんにとって最善となる治療のゴールを話し合う場〜」)。しかし、多くの患者さんの問題に対応させていただく以上、一人の患者さんに割くことのできる時間は現実的にはどうしても限られてしまいます。

一人の患者さんが入院されると、状況にもよりますが、日々のケアの時には看護師、リハビリの時は理学療法士や作業療法士、食事の指導や内容などについては栄養士、薬の内服方法や管理については薬剤師、退院した後のことの相談はソーシャルワーカーなど、多くの医療スタッフと関わることとなります。患者さんはリハビリ中に感じた自宅に帰った後の不安は、その場にいたリハビリスタッフにしか打ち明けないかもしれません。また、患者さんと日々多くの時間を共にする看護師の方が汲み取りやすい悩みがあるかもしれません。様々な職種で情報を共有できた方が、その患者さんの背景のこと、抱えている問題もよくわかり、今後の課題についてもわかりやすくなります。
そこで、我々は、緩和ケアが特に必要と相談を受けた方々の診療について、チーム全体で話し合い、医師による医学の視点だけでなく、リハビリの視点、今後の生活の視点など、多角的に情報を集めて全人的な緩和ケアを取り組んでおります。

4)当センターの緩和ケアチームの活動内容

日々、相談を受けた患者について、毎週水曜日にチームで情報共有し、今後の方針を話し合います。そこで主治医チームに許可を得た上で、患者さんから直接お話を聞かせていただき、主治医チームと再度話し合いをしています。相談内容については、麻薬の投与方法であったり、難治性疼痛であったり、倫理的にジレンマを感じる例であったり、今後の自宅での介護であったりと様々です。
また、毎月一回緩和ケア委員会を開催しています。そこで話し合った我々緩和ケアチームの最終的な目標は、
「がん・非がん、末期・非末期、急性期・慢性期問わず、「つらさ」を感じているすべての患者さんに、適切に緩和ケアを提供できるようにする」
ということです。その目標を達成するために、各職種ごとの目標も定めています。
また、その委員会において、チームのスタッフ自身の緩和ケアの知識やスキル向上のために、厚生労働省の主催する緩和ケア講習会(PEACE)で用いられているスライドを、毎月一人が一部分を担当して発表し共有することで、各スタッフのインプットとアウトプットの訓練をしています。
このように、緩和ケアチームは一丸となって、目標を持って日々の診療にあたっているのです。

◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科

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