月1回更新している東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科のweb通信ですが、今月は当科の多職種カンファレンスについてご紹介します。
病院におけるカンファレンス≒会議には様々な目的や形態があります。医師が参加するものに絞っても、研修医や専修医を対象とし、教育を目的とした教育カンファレンス、医療の質向上を目的として実際の症例を取り上げるM&M(mortality&morbidity)カンファレンス、病理解剖の結果から臨床上の疑問を紐解くCPC (clinicopathological conference)、医療安全や感染管理などの各種委員会、診療科内部の業務連絡会議など実に様々です。それでは、多職種カンファレンスとは誰を対象とし、何を目的としたものでしょうか。また、それを実現するためにどういったカンファレンスが効果的か、東京ベイ総合内科ではどのように取り組んでいるのか、順を追ってご紹介しますのでぜひ最後までお付き合いください。
多職種カンファレンスってどんなカンファレンス?
多職種カンファレンスの目的をざっくりというと、チーム医療を実践し医療の質を向上させることです。チーム医療の発揮の仕方はカンファレンスだけに留まりませんが、一つの重要な手段であることは間違いありません。東京ベイ総合内科の多職種カンファレンスには、医師、看護師、薬剤師、臨床工学士、栄養士、リハビリスタッフ、ソーシャルワーカーなど一人の患者さんに関わる様々なスタッフが参加します。入院中の患者さんは、その人その人によって様々な問題を抱えています。医学的な問題以外にも、個人の嗜好や家庭の事情など多種多様な問題が複雑に絡みあっています。複雑な問題を抱えた患者さんには特に、医師や看護師の個人の力では解決できない壁が立ちはだかることがあります。この壁を乗り越えるのに、多職種カンファレンスが解決の糸口となることが、実はよくあるのです。
多職種カンファレンスの意義は次の3つに大別されると思います。
①ケアの質の向上
②医療者間のコミュニケーションの強化
③教育的側面
①ケアの質の向上
多職種でカンファレンスをすることにより、当然普段よりも多くの視点から事象を検討することになります。これにより、ケアの質は格段に向上します。医師の場合でいうと、普段の回診やカルテ上だけでは把握できない問題があります。中には医師に対しては、自分の思いを上手く表現できない患者さんもいらっしゃいます。(実は病状よりも、仕事をしており入院期間を心配している。肺炎で入院したが、認知機能低下の問題が以前からあった。など)
複数の職種の目を取り入れることで隠れた問題(本当は隠れてはいないのかもしれませんが)を発見することが可能となります。また、医療者はそれぞれ得意な分野が違います。カンファレンスで各職種の専門性を上手に活かせれば今まで解決できなかった問題にも解決への道筋が見えてくることがあります。
②医療者間のコミュニケーションの強化
多くの医療機関、特に急性期病院において医療者の日常業務は膨大な量になっており、余剰時間は極めて少ないのが現状です。様々な要因がありますが、このような状況は改善されるべきです。一方で余剰時間の減少に伴い、他職種とのコミュニケーションの時間が犠牲になってしまうこともしばしば経験されます。多職種カンファレンスは決まった時間に集まり対話することで、お互いの意図が伝わりやすいため関係を円滑にし、その後の仕事がしやすくなります。また、上手にカンファレンスを運営すれば結果として時短にもなり業務効率の改善につながります。
③教育的側面
取り上げられる機会は少ないかもしれませんが、多職種カンファレンスには教育的な側面もあります。当センター総合内科は後期レジデントが担当医として診療に大きな役割を担っており、必然的に若手医師にも活躍の場が設けられています。医師は、医学的な臨床判断は上級医からの耳学問や自学自習で学ぶことができますが、患者ケアやリハビリなどを含めた包括的な「医療」を学ぶ機会は相対的に少ないのが現状です。多職種カンファレンスはそれぞれの専門家が、お互いの引き出しから患者さんに適したアプローチを提案する場であるため、自分の職種とは違った視点を持って医療を学ぶことができる貴重な機会となります。これは医師以外にも当てはまります。また、若手医師がカンファレンスを運営することでファシリテーションのトレーニングにもなります。司会のファシリテーション能力が議論を円滑に進めるためには必要です。多職種カンファレンス以外のカンファレンスでも、限られた時間の中で最良のプランを立てるためにファシリテーション能力は必須のスキルですので、積極的に後期研修医にカンファレンスの運営を任せ、フィードバックをしています。
東京ベイ総合内科 多職種カンファレンスを上手に行うための秘訣
多職種カンファレンスで取り上げられる患者さんの多くは、担当医、担当スタッフが「今後どうしたらいいのだろう」「どうするのが正しいのだろう」と迷ってしまうような、倫理的ジレンマを抱えた方です(食べられなくなった認知症の高齢患者さんに、胃瘻を造設するかどうかなど)。そういった時に、当科では「Jonsenの4分割法」を積極的に活用しています。これは患者さんの背景を「医学的なこと」「患者さん自身の意向」「QOL(生活の質)」「周囲の状況」の4つに分けて抽出していくことで抱える問題点を漏れなく整理して挙げ、その後の方針決定に役立てる方法の一つです。こうした方法でまとめることで、倫理的ジレンマを抱える原因がどこにあるのか、方針決定が難しくなる原因がどこにあるのかが浮かび上がってきて、その先にある問題解決への糸口が見つかりやすくなります。
また、カンファレンスのゴール設定も重要です。患者さんの抱える問題を共有することなのか、治療方針を決定することなのか、退院先を決定することなのかなど、カンファレンスの目的をファシリテーター、参加者ともに意識しないといけません。ゴールを意識することで、具体的なプランを立てることが可能になります。
また重要なのは、当事者の誰かを叱責するような場にならないように注意することです。問題が複雑化すると、患者―医療者間の関係性が時に上手くいかないことがあります。それを他者が糾弾するような場では、良いアイディアは生まれてきません。カンファレンスの中では常に全体を見て建設的に議論を行い、個人への意見、フィードバックなどはカンファレンス後に個別に行うなどの工夫も、忘れがちですが重要なことです。
今回は東京ベイ総合内科の多職種カンファレンスについてご紹介いたしました。日々の診療では、多種多様なスタッフがチームとして機能することで、より良いパフォーマンスが発揮されます。私たち東京ベイ総合内科は、他者と協働することで、患者さんに高いクオリティの医療を提供することを目指すという文化を、今後も育んでいきたいと考えています。