キャリアの糧となった東京ベイ総合内科研修の3ヶ月間

はじめまして、洛和会音羽病院シニアレジデントの藤井です。2017年8月から3ヶ月間の総合内科研修・2週間のICU見学をさせていただきました。私は、現在の病院で総合内科、麻酔科、ICUでの研修を行っていますが、特に循環器疾患の診療と倫理の勉強を深めたいと考え、東京ベイ・浦安市川医療センター総合内科での短期研修を希望しました。
東京ベイ総合内科での3ヶ月の研修で印象的に感じたことは、重症・循環器疾患を含む幅広い内科疾患の診療が行えること、各専門科と総合内科の連携が非常にスムーズであること、毎日カンファレンス・レクチャーがありインプット・アウトプットの機会に恵まれていること、倫理面での体系的な考え方を学べ、日々の診療で活かすことができることです。

診療できる疾患の幅広さと専門内科との密接なコラボレーション

診療できる内科疾患の幅広さは東京ベイ総合内科の大きな特徴であり、HCU(High Care Unit)に入室するような重症疾患、循環器疾患を含むすべての内科疾患患者を入院中に担当します。特に総合内科にして急性冠症候群、不整脈、急性心不全等の循環器疾患を多く経験できる施設は他にないのではないかと感じます。循環器疾患の患者には循環器内科の先生が担当医としてチームについてくださり、フィードバックを受けながら安心して診療に当たることができます。また毎朝の循環器内科との合同カンファレンスでは、治療の方向性の確認・ミニレクチャーを通しての知識の共有を図ることができます。

一方、総合内科も専門科と対等に議論できるだけの知識のupdateや心エコー等の技術も求められます。循環器内科との合同カンファレンスでは自分で行った心エコーの動画をもとに議論が行われ、総合内科のシニアレジデントが当たり前のように心エコーでLVOT-VTI(左室流出路速度積分値)やTAPSE(三尖弁輪収縮期移動距離)の測定、SVR(体血管抵抗)の計算をされているのを見て衝撃を受けました。それまで簡易な心エコーしか行ってこなかった私にとっては、大変な環境でしたが3ヶ月間多くの循環器症例にあたり、毎日のように心エコーをあてた経験は現在に生きています。他院では専門科が診療にあたるような消化器、呼吸器、腎疾患等についても、専門科の先生とともに自分たちで診療にあたることができ、3ヶ月で数多くの症例を診させていただきました。総合内科を経て各専門科に進まれた先生も多く、各科との垣根の低さを実感しました。

豊富なカンファレンス・レクチャー

カンファレンス、レクチャーが非常に多いのも特徴です。毎朝の総合内科の新入院患者のカンファレンス、循環器内科合同カンファレンスに加え、毎日昼には消化器や腎臓、感染症、倫理などテーマを決めたレクチャーやジャーナルクラブ、月1回ずつの救急や外科との合同カンファレンスがあり、常にインプット、アウトプットの機会を与えられます。レクチャーはスタッフの先生の監修のもとでレジデントがテーマを決めて作成します。私も3ヶ月の間に、消化器レクチャー、外科合同カンファレンス、ジャーナルクラブと3回の発表の場を与えていただき、大変勉強になりました。また心臓血管外科術後の心肺停止への対応の仕方など、迅速な対応が必要な状況に備えてシミュレーションが定期的に行われています。

体系的に学べる医療倫理

東京ベイでの短期研修の大きな目標に倫理面の知識・実践法を学ぶことがありました。日々の診療では、嚥下機能が廃絶して経口摂取が不可能な患者、自らの意思決定が困難となった患者、必要な治療を拒否される患者への対応の問題や、患者家族と医療従事者の間での意思疎通不足などから関係が悪化した症例など、方針決定の上で倫理的な面で悩ましい症例に多く出会います。そのような状況におけるアプローチの仕方を体系的に学ぶ機会のなかった私にとって、研修は大変大きな収穫となりました。部長の平岡先生のレクチャーや昼の倫理カンファレンスで、心停止時・心停止以外の急変時でのcode statusの考え方、Advance care planning、Jonsenの4分割法を用いた方針決定困難な症例への対応の仕方、アンガーマネジメントなどを体系立てて学べました。
また毎週末に方針決定困難な症例に対して病棟で多職種カンファレンスが行われ、患者や家族の価値観に寄り添ったゴールはどこにあるのか皆で議論する場を設けられます。このような場では、医学的視点と看護的視点を兼ね備えた診療看護師の方に大いに助けていただいたように思います。倫理面で悩ましい症例があっても、対応の仕方を皆が認識し、乗り越えていくシステムが出来上がっていることに感銘を受けました。

多彩な院外活動とon-offの明確な当直体制

院外活動・学術活動も盛んで、多くのセミナーの開催に関わっており、ケースレポートや海外の学会発表をされる先生も多く刺激を貰える日々でした。完全当直医制度のため、on-offが明確に分かれており、夜間や週末は自分の時間や、院内で行われたセミナー(POCUS:Point of Care Ultrasound、最新論文30選等)の参加に当てることができました。

東京ベイの総合内科では、重症・循環器疾患を含むあらゆる内科疾患をもつ患者さんに対して、医学的視点だけでなく倫理面からも対応できる医師になるための研修環境が整っています。求められることは広く、深く、多忙ながら充実した日々でありました。3ヶ月の研修は私に大きな成長のきっかけを作ってくれたと思っています。興味を持たれた方は、ぜひ短期研修に応募されることをおすすめいたします。

文責:藤井元輝
略歴:2014年卒。洛和会音羽病院で初期研修後、同院でシニアレジデントローテーターとして総合内科、ICU、麻酔科研修を並行して行っている。感染症科医、集中治療科医を目指しています。

研修を終えた藤井先生へのメッセージ

石塚あずさ(東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科)
藤井先生は3ヶ月間総合内科チームに加わってくれましたが、その中でたくさんの刺激を私たちに与えてくれました。中でも、洛和会音羽病院で身につけてきた、身体診察の極意は素晴らしく、日々のベッドサイド回診で患者の手の所見や聴診所見等をつぶさに観察し、臨床推論につながる数々の所見をチーム内や内科カンファレンスで共有してくれたことはいつもとても興味深かったです。当センター総合内科は、施設や専門領域をふくめ多様なバックグラウンドを持った医師が集っており、日々の診療やカンファレンスの中で、その多様な見識を互いに共有しながら切磋琢磨できる環境であることも大きな魅力です。

平岡栄治(東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科 部長)
当センターに3ヶ月来て、いろいろなことを吸収してくれたようでうれしいです。当センターにはハートセンターもあり、非常に多彩な循環器救急患者が入院されます。総合内科医はすべての領域をまんべんなく学ぶ必要がありますが、循環器も非常に重要ですよね。ぜひ、心エコーも続けてください。
私は米国での内科研修で初めて臨床倫理教育を受け感銘を受け一生懸命勉強しました。意思決定に患者の価値感を反映することは非常に重要と私は思います。医学的なこと、法的なこと、倫理的なことを十分に吟味するトレーニングが重要です。ぜひそういったことを広めていっていただけるとうれしいです。

上部写真について。内科チームでの送別会。左から二番目が筆者。
◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科

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