病院総合医への道〜研修病院選びや医師キャリア形成の新たな選択肢〜

総合内科の年間1つ目のテーマは、「ホスピタリスト」についてです。
我々の研修の目標は、いわば日本版の「ホスピタリスト」となる上での礎を築くことにあります。もちろん当院の研修医の中には、最終的には循環器内科・消化器内科などの臓器専門科を志す研修医もおりますが、臓器専門の研修に進む前に当院の研修を通じて一般的な内科入院患者さんの管理に精通できるようになりたいという高い目標を持った研修医も多いです。

一つお知らせになりますが、来月6月2日-3日にはACP (American college of physicians:米国内科学会)日本支部の年次総会が京都大学で行われます。当科からは、6月2日に最新論文20選2018年度版:忙しいあなたのために Internal Medicine Update: the Important 20 articles in 2017 and 2018というプログラムを当科部長の平岡が中心となって開催しますので、お気軽にお声かけください(http://acp2018.org/program.html)。多くの医師の皆様とお会いできることを楽しみにしております。

では、そもそもホスピタリストとは何かについてご紹介いたします。
なお、この記事でお伝えしていることは、当院総合内科スタッフも執筆に多く関わっている雑誌「Hospitalist」の中でも、2013年に刊行された、「特集:ホスピタリスト宣言」に詳述されておりますので、興味を持たれた方はご参照くださると幸いです。

1、ホスピタリストってなに?

ホスピタリストとは、最近では「病院総合医」と訳されることが多いようですが、いわば入院患者の内科管理のスペシャリストです。病院総合医という言葉の方が馴染みやすいと思いますので、以降の文章は病院総合医と表現させていただきます。
なお、米国における「ホスピタリスト」は入院患者管理を専門とする医師です。日本における病院総合医は、このいわゆる「ホスピタリスト」の役割と外来診療の役割双方があります。当院でも、もちろん入院患者管理のみならず外来診療も大切と考え診療、教育を行っていますが、今回はいわゆる入院患者管理に絞ってお話ししたいと思います。

病院総合医の歴史は、米国に始まります。
米国では、もともとはinternist(内科医)とfamily practitioner(家庭医)が、いわゆるprimary care physician(プライマリケア医、いわばかかりつけ医)となっていました。その患者さんが入院となると、そのかかりつけ医が自分の入院患者の診療も行っていました(今でいうと、開業医の先生が病院の患者の管理をはるばる病院まで直接きてくださって診療にあたるようなイメージでしょうか)。しかしながら、多忙な外来管理の合間に病院にいって入院患者の診療にあたるのは効率も悪く、急変した場合の対応も遅れてしまう可能性がありました。

そこで患者さんが病院に入院した段階でかかりつけ医ではなく病院総合医が受け持つことでそれらの解消が期待されました。当初は自分の患者の責任は全て持とうとするかかりつけ医による反対もあったものの、徐々に時間の有効活用がかかりつけ医の間でも実感されるようになりました(もちろん時間の効率化だけではなく、医療が多様化してきたこと、政治的背景などもっと複雑な要因が絡み合っていたようですが簡略化しています)。

こうして病院総合医は急速に全米で普及していき、1996年に世界的に権威のある医学雑誌である「New England Journal of Medicine」に病院総合医が紹介され、1997年に、病院総合医の学会であるSociety of Hospital Medicine(SHM:米国病院総合診療医学会)の前身である、National Association Inpatient Physicians(NAIP)が生まれ、2003年にSHMへ名称を変更して現在に至ります。

病院総合医の数も米国では急増し、当初は1000人以下だったのが、2011年には3万人、病院総合医が生まれてちょうど20年目の2016年には、5万人を超えたと発表されており、今もっとも注目を集めている分野といえるでしょう。昨年筆者もSHMの年次総会(1年に1度の病院総合医のための総会)に参加しましたが、参加人数5000人程度と、非常な賑わいを見せていました。

なお、今年度は4月8-11日まで米国のOrlandoで行われ、当科からもスタッフの山田・江原に加えて2017年度チーフレジデントの高崎がポスター発表をしています。

2、病院総合医の強みはなにか?

病院総合医は内科入院患者のスペシャリストです。例えば、心不全とCOPD(慢性閉塞性肺疾患:肺気腫)がある患者さんの呼吸状態が悪くなって入院が必要となった場合、従来であれば肺炎の可能性が高いから呼吸器内科が担当するのか、心不全が悪くなっている要素もあるから循環器内科が担当するのか、専門疾患を複数持つ患者さんは誰が診療すべきかが不明確でした。もっと複雑な場合もあるでしょう。末期腎不全で維持透析中、さらに心筋梗塞の既往もある患者さんが血便で入院になった場合、主治医は腎臓内科医なのか、消化器内科医なのか、循環器内科医なのかとなるとさらに専門性が高くなり、今までは大きな問題でした。

そこで病院総合医が登場したことでどうなるかというと、内科系の入院患者のため一括して病院総合医が担当します。そして、病院総合医は自分たちで一般的な管理は行いつつも、それぞれの専門科と連携しつつ診療にあたります。当院でも、上記のような患者さんは総合内科が担当させていただき、各科と連携して診療に当たっています。
ここまで聞いて、連携しているだけで結局のところは各科に振り分けをしているだけではないかとお感じの方もいるかもしれません。しかしながら、病院総合医の知識面における目標は、浅く広くできるようになることではありません。各専門科と対等に治療方針について協議をしていくためには共通言語を持つ必要があるため、あらゆる専門疾患についても一般的な最新情報には精通することが求められます。

また、実際の医療現場では、単にそれぞれの病気に対して標準的な治療を一律に行えばいいかというと、そこまで単純ではありません。各疾患について、現在標準とされている治療があったとしても、実際にその治療を行うことが患者さんにとっての治療目標に合致するかという全体を見渡す視点も必要ですし、その話し合いをするためには治療により得られるメリットやデメリットなどの知識も必要です。これらの視点は、各臓器の専門医にとってももちろん必要なものではありますが、日頃から全体を見渡す必要とその機会を多くもっている病院総合医が得意とするところです。

3、本当に病院総合医は必要か?

何事においてもそうですが、ある分野で新規参入するためには、自分たちがいる優位性や必要性を示す客観的なデータが必要です。そこで米国の病院総合医たちは、自分たちがいる強みをどんどんデータにしていきました。
病院総合医が医療を行うことで
・急性期病棟に入院した患者さんの医療の質や満足度を下げずに入院期間の短縮と入院コストが削減する

JAMA. 2002;287(4):487-494

・死亡率・再入院率を上げずに、入院日数を0.4日、コストを268ドル減らした

N Engl J Med. 2007;357(25):2589-2600

などのデータが今までに示されています。その他、医学教育において、病院総合医が医学生や研修医の教師となると、教育への熱意・知識や態度、適切なフィードバックなどにより満足度が高いということも示されています。

4、病院総合医は海外だけでなく、日本でも必要か?

日本においても、高齢社会になったことで、様々な病気を抱える患者さんの割合は増え、多様な疾患に対応できる病院総合医のニーズは、ますます増加するでしょう。皆さんの身の回りにも、心房細動と糖尿病と慢性腎臓病があって、骨粗鬆症や甲状腺機能低下症もある、などといった高齢の方は多いのではないでしょうか。これらの疾患一つ一つについて、病院総合医は現時点での標準治療は知った上で、さらなる専門管理を要する必要が生じた場合に専門科と協議しています。

5、他の専門科への影響は?メリットはあるか?

我々としては、多様な疾患に対応するという患者さんに対しての側面だけでなく、一緒に働く臓器専門医に対しても強みになりたいと思っています。専門疾患であっても一般事項は当科で対応することで、臓器専門医へ過度なコンサルトがいかないようにし、専門性の特に高い部分について集中したコンサルトをさせていただくことで臓器専門医の診療効率を上げることを期待しています。また、臓器専門医へ過度なコンサルトがいかないことで、よりカテーテルや内視鏡、あるいは手術などの専門手技に集中していただける時間を増やし、最終的には患者さんへ提供できる病院としての医療の質の向上につなげられることを期待しています。

6、病院総合医として活躍するためにはどうしたらいいか?

当院で研修を行うのが近道です!
東京ベイの研修では、あらゆる分野に精通した平岡部長を筆頭とした内科スタッフがサポートに回るだけでなく、各専門科とも定期的にカンファレンス、あるいはレクチャーをおこなっていただくことで、各分野のUpdateを行うことができています。開院当初から、救急科、総合内科、集中治療科を軸として各専門科が連携するシステムをとってきた当院では、他の科との連携も自然と生まれ、通常以上にお互いを尊重し合える環境でいられるのです。

また、志の高い研修医が全国から集まってくることで、様々な疾患に対応する必要のある大変な業務でもやりがいを持って診療していますし、素晴らしい仲間たちに出会えます。さらには、予防医学・アドバンス・ケア・プランニングなど、入院中だけでなく今後を見据えた視点についても、当院では学ぶ機会に恵まれています。

来月以降、病院総合医としての研鑽を積むために当院で日々行われていることや特長について、具体的な内容をご紹介させていただこうと思いますので、ぜひご覧ください。それでは今後も東京ベイ総合内科をどうぞよろしくお願いいたします。

文責:総合内科 遠藤 慶太、松尾 裕一郎

◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科

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