〜食道・胃静脈瘤とは〜
みなさんは「静脈瘤(じょうみゃくりゅう)」という病気を聞いたことがありますか。「静脈」の「瘤(こぶ)」と書きますが、まさにその通りで食道や胃の血管がでこぼこに膨らんで、蛇行し、瘤のようになっています。あとに画像を載せていますが、これは一度見たら忘れません!では、どうして食道や胃に静脈瘤は出来るのでしょうか?
■食道・胃静脈瘤の成り立ち〜「門脈(もんみゃく)」ってご存知ですか?~
動脈や静脈という言葉はよく聞かれると思いますが、「門脈(もんみゃく)」という言葉、聞いたことがありますか?静脈瘤ができる過程で、門脈という血管が関わっています。
門脈は食道や胃、小腸の血液を肝臓に集める大切な血管です。心臓じゃなくて肝臓に血液が集まるの?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。もちろんすべての血液は心臓から出て心臓に戻るわけですが、消化管と言われる食道や胃、小腸の血液は一旦、肝臓を経由しています。肝臓は消化管から吸収された栄養を蓄える“貯蔵庫”になっているからです。肝臓は栄養を蓄えるだけでなく、体の中で必要なものに作り変えたり、必要のないものは分解する機能があります。
なんらかの原因で、この門脈の流れが悪くなると、肝臓に運ばれる血液の流れが滞ってしまい、その結果門脈の圧が上がります。圧が高くなると血液は肝臓に入ることが出来なくなってしまい、別の道(これを「側副血行路(そくふくけっこうろ)」と呼びます)を通ってなんとか心臓に戻ろうとします。その側副血行路の一つが食道や胃の静脈で、本来は細かった静脈に多くの血液が流れてくるため、食道や胃の静脈が段々と太くなって瘤のようになってしまうのです。これが食道・胃静脈瘤です。
■門脈の圧が上がる原因って?~肝硬変では要注意です~
門脈の圧が高くなることで静脈瘤ができるわけですが、門脈の圧が高くなってしまう病態を「門脈圧亢進症(もんみゃくあつこうしんしょう)」といいます。その原因となる最も代表的な疾患に肝硬変が挙げられます。「肝硬変」は字の通り、肝臓が硬く変わってしまった状態であるため、肝臓にもどるはずの門脈血がスムーズに入れなくなり、行き場を失った血液は逆流して側副血行路に流れ、静脈瘤が形成されていきます。そして恐ろしいことに、このようにして形成された食道・胃静脈瘤の破裂が、肝硬変の3大死因の一つとなっているのです。
■静脈瘤ってどうやったら分かるの!?〜定期的な内視鏡検査が大切です~
残念ながら静脈瘤が出来てしまっているかどうかは、体の外からの診察や血液検査からは分かりません。普段の生活で静脈瘤そのものによる自覚症状というのもないので、自分で気づかないうちに静脈瘤が大きくなり、やがて破裂して大出血!ということにもなりかねません。「瘤(こぶ)」が破れてしまうので、大量の血液を喪失してしまい、その結果体内の血液が足りなくなってショック状態となり、命に関わる緊急事態となります。破れた静脈瘤に対しては内視鏡を使った治療が有用ですが、仮に出血を止めることが出来ても、一時的に全身の血液が足りなくなってしまうことにより、複数の臓器に負担を与えてしまうこともあり、静脈瘤が破れてしまわないように治療をすることが望まれます。そのためには、静脈瘤がどのような状態にあるのか、定期的に内視鏡での経過観察が必要です。実は、破れそうな静脈瘤(ハイリスク静脈瘤)は内視鏡で見極めることができます。ハイリスク静脈瘤は、さくらんぼや血マメのように赤く腫れた所見があったり、ミミズのようにクネクネしていたり、静脈瘤が数珠のようにモコモコしていたり、などが挙げられます。このような所見がある時は、予防的な治療が必要です。
■静脈瘤の治療には何をするの?〜内視鏡治療を紹介します~
① 破裂してしまった場合
これは緊急事態なので、緊急での内視鏡治療が必要となります。内視鏡で出血点を確認後、食道静脈瘤からの出血であればEVL(endoscopic variceal ligation, 食道静脈瘤結紮術)といって、小さな輪ゴムで静脈瘤をぎゅっと縛ってしまいます。胃静脈瘤からの出血の場合は、静脈瘤そのものに組織接着剤(ヒストアクリル)を注入し、静脈瘤を固めてしまいます。出血の勢いが激しくて出血点が分からない場合や、過去に何回も静脈瘤治療を行って、輪ゴムをかけるスペースが残っていない場合は、S-B tubeという風船付きの太いチューブを使って静脈瘤を圧迫し、止血するのを待ちます。
② 予防的治療の場合
予防治療は肝硬変の進行具合によっても異なりますが、先ほどお話したEVLのほか、静脈瘤に直接針を刺して硬化剤を注入するEIS(endoscopic injection sclerotherapy, 食道静脈瘤硬化療法)に加え、残った小さな静脈瘤をアルゴンガスで焼いてしまうAPC(argon plasma coagulation, アルゴンプラズマ凝固療法)や、外科治療、カテーテルを使った放射線治療(IVR,interventional radiology)などがあります。
食道・胃静脈瘤の破裂は命に関わる非常に危険な状態ですので定期チェックが大切です。肝硬変やその他の肝臓の病気を指摘されたことがある方は、かかりつけの先生と相談してまずは内視鏡で食道や胃の状態を調べてみましょう。