こんにちは、東京ベイ消化器内科の吉岡です。
今日のweb通信では患者さんの多くが内服されている抗血栓薬(いわゆる血液をサラサラにする薬)と消化管出血の関係をできるだけわかりやすくご紹介したいと思います。
抗血栓薬による消化管出血とその予防について、「もっと専門的なことも知りたい」という方がいらっしゃいましたら、私が最近寄稿した医学雑誌の記事もご覧いただければ幸いです(『抗血小板薬・抗凝固薬投与中の消化管出血予防』 Hospitalist 2019年第3号、9月発売予定)。
抗血栓薬による梗塞予防と出血リスク、どちらに重きをおくのか?
心筋梗塞や脳梗塞という病気は、一般的にも広く知られている病気です。心臓の筋肉に血液を送る血管である“冠動脈”が詰まってしまうと心筋梗塞が生じます。また、脳に血液を送る血管が詰まってしまうと脳梗塞になります(脳卒中とは、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の総称です)。
いずれも生命に関わる非常に危険な病気です。血管がつまる病気を“梗塞”と呼びますが、梗塞を予防するのが抗血栓薬です。抗血栓薬には大きくわけて“抗血小板薬”と“抗凝固薬”があり、病気の種類や、病気の生じる(生じた)原因によって使い分けをしています。
抗血栓薬は非常に優れたお薬ですが、血液がサラサラになると、どうしても出血の割合は多くなります。出血の中でも消化器内科医が普段診療させていただくのは潰瘍などによる胃腸からの出血(消化管出血)です。心筋梗塞や脳梗塞の予防は出来たけれども、命に関わる消化管出血が生じてしまった…というようなことも、抗血栓薬が頻用される今の時代では十分に起こりえます。重要なのは梗塞と出血どちらのリスクが高いのか、個々の患者ごとに適切に評価をすることです。
どうやって消化管出血を予防すればいいのか?
消化管出血には多く分けて、胃からの出血(上部消化管出血)と大腸からの出血(下部消化管出血)があります。
大腸からの出血を予防する薬は、今までのところ明確に有効なものはありません。一方で、胃からの出血を予防するにはいくつかの胃薬が有効であることが知られています。その中でもプロトンポンプ阻害薬(PPI)という胃酸の分泌を抑える薬が、特に胃からの出血予防に有効です。そのため、”抗血栓薬“を処方する場合に、PPIを併用することがあります。
抗血栓薬を飲んでる人は全て胃薬も飲むべきなのか?
ただ、“抗血栓薬”を内服する方全員にPPIを併用したほうがいい、というわけではありません。ポリファーマシーといって、あまりに多くの薬を内服することは健康被害につながることが最近わかってきました。胃酸の分泌を抑えることで胃潰瘍の発症のリスクを下げてくれるPPIも、一方で、骨粗鬆症や、感染症、腎障害などのリスクを上げるのではないか、と言われ始めています。私が寄稿した記事では、日本だけではなく海外の診療指針(ガイドライン)も概観し、どのような患者さんがPPIを内服したほうがいいのか、逆にどのような方はPPIは必要ないのか、について記述しました。

一番多く飲まれているアスピリンというお薬のこと
“抗血栓薬”の中で一番数多く処方されるのがアスピリンです。アスピリンを内服している高齢者は、基本的にPPIの併用が推奨されています。ただ、普段外来で診察をしていると、かかりつけ医から処方されているアスピリンを内服しているけれど、理由はよくわからない…という患者も時々おられます。そういう場合、実は中止が可能というケースも少なくありません。中止可能な薬は中止するのがポリファーマシー防止の観点からも重要ですので、アスピリンを内服している患者に条件反射的にPPIも併用するのではなく、アスピリンは中止可能なのかをまず振り返ることが、重要と考えます。
ご自身のお薬手帳、一度見直してみませんか?
色々なお薬を飲まれている方は、ご自身のお薬手帳をこの機会に一度見直して抗血栓薬(抗血小板薬・抗凝固薬)があるかないかをまず確認してみてください。もし「どうして自分は血をサラサラにする薬(抗血栓薬)を飲んでいるんだろうか?」と疑問に思われた際は、ご自身のかかりつけの先生にお尋ねいただくことをオススメします。
