東京ベイ・浦安市川医療センター救急外来部門です。
今回は「こどもが突然腕を動かさなくなって・・・。」といった場合に、原因として最も多い、肘内障についてお話しします。
肘内障はどんなケガ?
5歳以下の子どもで、「腕が痛む・腕が動かない」の原因として最も多いのは「肘内障」という子ども特有のケガです。このケガを説明するために、まずは腕の骨の構造をお話しします。
ヒトの肘より上(上腕)の骨は上腕骨という一本の太い骨ですが、肘より下(前腕)は 尺骨と橈骨という2本の骨になっています。このおかげで、前腕は大きく内外に回せる(ドアノブを開けたり締めたりするような動き)ようになっています。
この前腕の2本の骨が分かれてしまわないように、支えている靭帯があり、これを輪状靭帯といいます。5歳以下の子供ではこの靭帯の発達が十分でなく、外れやすくなっています。この靭帯から骨が外れてしまった状態を肘内障といいます。

日本整形外科学会 肘内障
引用:https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/pulled_elbow.html
特に、突然、手や前腕を引っ張るといった衝撃により輪状靭帯は外れやすくなっています。典型的には、「走りだそうとする子どもを、腕をつかんで支えた」「転びそうになった子どもを、手を引っ張って止めた」といったエピソードが受傷のきっかけとなります。
その他にも腕を大きく振り回して遊んだり、寝ているときに腕が体の下に巻き込まれたりすることで起こりえます。一方で「ソファーやベッドから落ちて手をついた」等では、骨折の可能性があるため無闇に腕を動かさない方が望ましいです。

症状としては受傷の直後から、痛みを訴え、腕を動かさなくなります。子供によっては痛みの場所を肘以外に手や前腕、肩が痛いと表現する場合もあります。
病院では何をするの?
肘内障は問診と診察のみで診断がつくことがほとんどであり、画像検査は通常必要ありません。しかし、骨折などが考えられる場合には画像検査をすることがあります。
診断がつけば、外れてしまった靭帯の整復(靭帯の位置を元に戻す治療法)を行います。特別な道具は必要なく、診察室で整復します。整復時には多少の痛みがありますが、整復された後には痛みはなくなります。
ただし、痛かった時の恐怖心からなかなか手を動かさないこともあるため、待合室で経過観察した上で再度整復されたか診察します。問題なく、手を挙げたり、きらきら星をするように肘から先を動かせたり、いつもと同じようにおもちゃで遊ぶことができれば整復完了です。笑顔で「バイバイ」して、ご帰宅いただけます。
*整復が難しい場合には再度時間を空けて整復するか、肘内障以外の原因を考え画像検査をする場合があります。
肘内障は防ぐことができる?
肘内障自体、再発が多いとされています。予防として、子どもと一緒に歩くときは手や前腕ではなく、肘より上(二の腕)を持つことは大切です。しかし、どんなに気を付けていても、子どもの動きは予測がつかないものです。完全に防ぐことは難しいことかと思います。もし子どもが肘を動かさなくなった場合には、すぐに近くの救急病院を受診してください。24時間365日、当院救急外来では緊急対応をしっかりさせていただきます。