こんにちは! 東京ベイの救急外来部門医師の石上です。
東京ベイ救急外来は24時間365日受診が可能なので、たくさんの方がいらっしゃいます。我々救急外来のスタッフは、来院された方が受診してよかったなと思える治療を提供できるように努力しています。
今年度、当センターホームページを通じて救急外来でよくみる病気や、皆さんが旅先で体調を崩した場合にどうすれば良いかなどについてお話したいと思います。
今年は4/28-30が休み・有給など使用すれば5/6まで最大でお休みになるかもしれないビッグゴールデンウイークとなりました。世間のお休みに伴って開業医の先生がお休みになり、病院の外来も閉まりがちになります。特にディズニーランドがある浦安は旅行者がたくさんくるため連休でも人口が減りません。
今回は小児の頭部打撲〜頭をぶつけた時どうすれば良いか〜。大事な赤ちゃん・子供が頭をぶつけたらどのようなときに受診すれば良いのでしょう。
具体的な状況を挙げてみます。
「遊んでいるときにテーブルの角で頭をぶつけてしまった」
「遊んでいて目を離した隙にベッドから落ちてしまった」
「ゴンという音がして見に行ったら泣いていて頭にたんこぶができていた」
小児は相対的に頭が大きく重いので、頭部外傷が成人と比べて多くなります。そのため頭の怪我で受診する赤ちゃん・子供はたくさんいらっしゃいます。
赤ちゃん・子供が頭をぶつけたら〜まずは意識確認〜
まず最初にしていただきたいことは意識の確認です。頭をぶつけたら赤ちゃん・子供はすぐに泣くことがほとんどです。呼びかけたりあやしたりしていつも通りの反応か確認します。全く泣かない場合やぼっーとしている場合は危険な状況かもしれませんのですぐに受診してください。
赤ちゃん・子供が頭をぶつけたら〜次にぶつけ方と症状をチェック〜
お母さんやお父さんが一番心配なのは頭の中が、すなわち脳が大丈夫かどうかですがポイントは頭のぶつけ方と子供の症状の2つです。頭をぶつけた時に、どの様な場合が医学的に危険かを示した研究があります。アメリカで行われた子供専門の救急の先生たちの研究です。42000人の頭をぶつけた子供達の研究でPECARNルールと言われています。※1
このルールでは、以下の様な項目に当てはまる時に医学的な介入が必要であることが分かりました。そこで当センターでも以下に当てはまる項目があるかを確認しています。
・90cm 以上の高さから落下した(2歳未満)
・150cm以上の高さから落下した(2歳以上)
・おでこ以外のたんこぶ(2歳未満)
・繰り返し吐いた(3回以上)
・けいれんした
・意識を失った(5秒以上)
・眠りがちでいつもと比べて様子がおかしい
・なんとなく意識がおかしく元気がない、遊ばない
・同じ質問を繰り返す
・会話の反応が鈍い
・意識がいつもと違う
・パンダのように目の周りが紫色になっている
・鼻や耳から血が出ている
以上のポイントから頭の中で危険なことが起きているかをある程度予測できると言われておりますのでご自宅でもぜひチェックしていただきたいと思います。当てはまるようなら遠慮なく受診してください。
赤ちゃん・子供が頭をぶつけたら〜精密検査をどうするか?〜
頭をぶつけた時は頭の中の検査を受けたほうがいいんですか?と迷うことが多いと思います。頭の中に血が出ているかどうかや頭の骨が折れているかどうか判断するのはCT検査が最も正確です。CTはレントゲン検査の一つですので放射線を用いて検査します。そのため被爆の影響を無視できない検査となっています。頭のCT検査は胸のレントゲン検査に換算すると100-200枚程度になります。被曝量としてはごく僅かですが、特に子供においては少なからずデメリット※2があることが最近の研究で明らかになっています。そのため、誰にでもというわけでなく、検査は賢く選択して受けた方が良いという運動が展開されています。(Choosing wisely campaign)
検査を行うかどうかは、上記に示したような、頭をぶつけた方や症状から総合的に判断していくことになります。危険性が高い場合には検査をお勧めすることになるでしょうし、エネルギーが低い場合や症状が軽い場合には、検査をするか医師と家族で相談することになります。逆に頭をぶつけてすでに4-6時間程度経っていて症状がなければ医学的にはあまり心配なく、自宅で家族に経過を見ていただくことも多いです。
以上の様に頭をぶつけた場合は
①意識を確認する
②頭のぶつけ方と症状を確認する
③頭のCT検査をするかどうかは医師と家族で相談する
となります。
いかがでしたでしょうか。
これからも東京ベイの救急外来では地域のみなさまの健康を守るために役に立つ情報を発信して参ります。
今後ともよろしくお願いします。
「どこにいけば?」を「ここにいけば」へ 東京ベイ ER
補足
※1
そのほかにもカナダ製のCATCHルールやイギリス製のCHALICEルールなどありますが、それぞれを比較すると一番見逃しが少ない(感度が高い)のはPECARNルールと言われており、東京ベイの救急科ではそれにのっとって診療を行っています。日本でも成育医療センターの先生を中心にこのPECARNルールを検証しており、2200人頭をぶつけた日本の子供を集めた結果、日本でも適応できるのではないかという研究もあります。またテーブルの角などやや鋭いところでぶつけた場合に頭の中が重症かどうかという研究は現時点では見つけられませんでした。(2018/5/5最終閲覧)
※2
子供は大人に比べると残りの人生が長いので放射線によって発がんが寿命に与える影響を考えなければなりません。一部のがんは子供のときに放射線を受けると受けてない人に比べるとなりやすいものがあることがわかっています。
参考文献
2014. ‘Head injury’, NICE clinical guideline 176. London: National Clinical Guideline Centre
Lancet. 2001 May 5;357(9266):1391-6.
Lancet. 2009;374(9696):1160-1170
Lancet.2017 Jun 17;389(10087):2393-2402. doi: 10.1016/S0140-6736(17)30555-X
Acad Emerg Med. 2017 Mar;24(3):308-314. doi: 10.1111/acem.13129.
Lancet. 2012[PMID:22681860]
http://www.pecarn.org (2018/5/5最終閲覧)
小児画像診断における放射線被ばくリスクの伝え方 (2018/5/5最終閲覧)
文責:救急集中治療科(救急外来部門) 石上 雄一郎