心房中隔欠損症(ASD)に対するカテーテル治療
心房中隔欠損症は、成人で発見される先天性心疾患では大動脈二尖弁に続き二番目に多い疾患です。全身に血液を送る役割を果たす心臓は、4つの部屋に分かれていますが、このうち左心房と右心房を仕切る壁が心房中隔と呼ばれます。この心房中隔に穴が開いたままで、異常な血流が心臓の中で流れている状態が心房中隔欠損症です。左心房から右心房に血流が流れるため、右室側に負担がかかり、心不全や心房細動という不整脈、また進行すると肺の血管の圧が上昇する肺高血圧をきたします。その結果、息切れ・動悸・むくみなどが出現し、適切な治療が行われなければ通常症状は進行していきます。また、足の静脈にできた血栓が心房中隔欠損孔を通り、脳梗塞をきたすことがあります。

イラスト提供:Abbott
治療適応
ASDにより息切れやむくみなどの症状がある場合、不整脈や肺高血圧を来している場合、また心臓超音波検査で肺体血流比✳︎が1.5を越えるような場合にはASD閉鎖術の治療適応となります。肺高血圧が進むと、右心系の圧の方が左心系の圧より高くなり、血流が右心房から左心房に流れるようになることがあり、この状態をEisenmenger(アイゼンメンジャー)症候群と言います。ここまで進行してしまうと、ASDを塞ぐ治療がかえって状況を悪化させてしまう可能性があり、治療は困難になります。そのため、症状が悪化してくる前に治療することが重要です。ASDを塞ぐタイミングが早いほど長期予後が改善するとも言われています。
(✳︎肺と体を流れる血流量の比で、正常は1.0)
治療方法
従来ASDの治療は開胸手術が主流となっていました。しかし、2005年より本邦でもカテーテル治療が可能となりました。カテーテル治療の成績は開胸手術の成績と遜色なく、低侵襲の治療として徐々に件数が増加してきています。現在(2019年末)、全国77施設でカーテル治療が可能ですが、当センターでもカテーテル治療を取り入れており、最短二泊三日での治療が可能です。欠損孔の大きさ、位置、合併疾患によってはカテーテル治療が困難な場合もあり、当センターハートチームによる入念な検討により判断を行います。
また、当センター心臓血管外科では低侵襲手術(MICS)によるASD閉鎖術も行っており、複数の治療選択肢より最善で確かな低侵襲治療を提供しています。

カテーテル閉鎖術
・閉鎖栓デバイス
・超低侵襲に閉鎖

低侵襲手術(MICS)
・完全内視鏡下手術
・確実な閉鎖
カテーテル治療入院の実際
当センターでのASDに対する標準的なカテーテル治療入院の流れを示します。
【入院1日目】
手技前日に入院します。
全身の状態を確認させていただいた後、改めて治療の説明を行います。
【入院2日目・治療】
全身麻酔であるため、朝、または昼から絶食・点滴となります。
治療はカテーテル室で行います。
全身麻酔後、経食道心エコーで心臓内の様子を観察しながら施行します。手順は以下の通りです。
①大腿静脈からシースを挿入し、ASDを越えてシースを左房側へ挿入する

②閉鎖栓を左心房にあるカテーテルの先端まで進めて、左心房側のディスクを開く

③閉鎖栓の中心部を広げて欠損孔に近づける


④閉鎖栓中心部の位置に合わせる

⑤右心房のディスクを開く


⑥閉鎖栓を前後に動かし、簡単に外れず確実に留置されていることを確認した後、接続を解除して終了

イラスト提供:Abbott
⑦治療前後の変化は以下のようになります。

経食道心エコー図

3次元 経食道心エコー図
治療後、右大腿の穿刺部位は圧迫止血していますが、数時間で圧迫を外すことができ、以降は歩行可能です。
【入院3日目】
治療翌日であり、必要に応じて採血、心電図、胸部レントゲン、心臓超音波検査を行い、大きな問題がないことを確認します。
特に問題なければ同日退院です。なお、上記日程は標準的な予定を示しており、実際は状態に合わせて変更させる場合があります。
ASD治療プロトコール
当センターでは、ASD患者の治療を進めていく上で、プロトコールを導入しています。ASD患者が来られたら、まずASDが治療適応にあるのかを判断し、治療適応がある場合は解剖学的評価や合併する心疾患がないかを評価し、なるべく低侵襲かつ確実な治療方法を決定します。
重要なことは、低侵襲にこだわることだけではなく、安全・確実な治療を行うことです。当センターハートチームでは、それぞれの患者にとってどの治療が最適かを常に協議し、治療後のリハビリや内服調整、退院後のフォローまで責任持って行います。ASDの治療についてお考えの場合は、いつでも気軽にご相談下さい。

当センターハートチームによる心臓病診療のご紹介
ペースメーカー植込み術
経皮的末梢動脈形成術
経皮的腎動脈形成術
心筋シンチグラフィー
心電図
心臓MRI
心臓CT
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